沖縄の魔除けの「サン」と「ゲーン」と「シバサシ」
2017/06/27
魔除けのサン
名護市の羽地内海に浮かぶ大きな島が屋我地島で、その離れ島のひとつに「ヂャーナマ」と呼ばれる小さな島があります。
むかし、その島で妻を亡くしたウスメ―(翁・おきな)が、魚をとりながら気楽な一人暮らしをしていました。
ある日、久しぶりの大漁で、ウスメ―が大よろこびした夜のことです。
「どれ、ごちそうでもつくって祝いでもするか」
ウスメ―は、お膳にならんだ夕食をながめながら。満足そうにお箸を手にとりました。
すると、どこからともなく。おおぜいのマジムン(化け物)があらわれ、いきなり料理に手をつっこんで、むしゃむしゃと食べはじめたのです。
腰をぬかしたウスメ―は、ただ目をぱちくりしているだけでした。
その日から、マジムンたちは毎晩のようにやってきて、ウスメ―の夕食をむしゃむしゃ食べるようになりました。
ふしぎなのは、マジムンたちに食べつくされたはずの料理が、なぜかもとのままのこっていることでした。しかし、ウスメ―がそれを食べると、かならずひどい吐き気や下痢におそわれるのでした。
きっと、マジムンたちが食べ物の精をぬきとっていたのでしょう。
「これでは、とても体がもたない」
ウスメ―は、なんとかしなければと思うばかりで、ほとほとこまりはてていました。
そんな夜のことです。
マジムンたちが、料理に手をつけず、そうっと帰ったことがありました。
ウスメ―が首をかしげながら、注意深くお膳をみると、そこにはススキの葉を小さく裂いて輪結びにした「サン」がおかれていました。
「ははあ、これが魔よけになったのか」
その日、ウスメ―はなんとはなしにススキの葉でサンをつくり、お膳の上にのっけていたのでした。これが、マジムンたちを追っぱらう魔よけになっていたのです。
「もうマジムンなんかこわくないぞ」
あくる日も、ウスメ―はススキでサンをつくり、お膳の上にのせておきました。
やがて夜になり、暗闇の中からマジムンたちがあらわれました。が、料理に手をつけることができず、うらめしそうに帰っていくのでした。
こうしてウスメ―は、サンの力でマジムンたちを追っぱらうことができたのです。
これにならい、弁当やシーミー(清明祭)の料理、近所へのおすそわけなどにはサンをそえるようになりました。とくに夏場の弁当が腐ってすっぱくなるのは、マジムンに食べ物の精をぬかれるからだといわれています。
『沖縄の由来ばなし』 文:徳元英隆 絵:安室二三雄 より引用
「サン」は、食べ物関係だけでなく、様々な魔除けに使われます。
沖縄の病院で働いている知り合い曰く、
入院している患者さんのベッドの枕元には、必ずと言っていいくらい、
「サン」が置かれているそうです。
ちなみに、これは、僕の部屋の枕元にある「サン」です。
Photo by Toshi
マジムン撃退用のツールとして、「サン」を大きくしたものが「ゲーン」?
四隅に置いて結界を作ったり、門口や屋敷、軒、畑などにさしたり、
お祓いをしたり、マブイグミをするときにも使います。
材料は、「サン」も「ゲーン」もススキです。
葉の形が剣に似ているので、ススキには、
魔除けのパワーや呪力があると信じられています。
桑の木にも、身を守る呪力がると信じられていて、
桑とススキの両方を使って作られる、
最終マジムン撃退用ツールが「シバサシ(柴差し)」です。
形は、どれも同じで、大きさと材料に違いがある…
と、僕は理解しています。
【「サン」の大型バージョンが「ゲーン」で、桑とススキを使ったものが「シバサシ」】
沖縄には、やたらと、魔除けツールがありますが、
(シーサーやら、石敢當やら、水字貝やら、やらやらやら…)
この土地で暮らしていくのに、必要なものだから存在している?と思い、
やたらと、愛用させてもらってます(笑)
沖縄魔除け サン 作り方
https://www.youtube.com/watch?v=FQ6VFbYxxGY
Photo by Toshi
写真は、やんばるの嵐山展望台から見た、
屋我地島~古宇利島界隈(手前の海が、羽地内海)。
左端に、ワルミ大橋も写ってます…
名護市 羽地内海
https://www.youtube.com/watch?v=PNuAA-ABV3M
PEACE
※コメント・質問等は、メールでいただけると幸いです。
(Top ページの Contact から運営者へ直接メールを送信できます)
Sponsored Links
関連記事
-
-
沖縄の七夕(旧暦7月7日) ~お日柄を選ばない日~
沖縄の人々は年中行事だけでなく、引っ越しや海水浴など、なにをするにも「お日柄」を気にします。そんな沖
-
-
『モモト Vol.24』 琉球・沖縄の死生観
沖縄のお墓史 沖縄を訪れる人に驚かれるのが、ユニークな墓の存在である。 それは1845年、那覇の街を
-
-
沖縄の世界遺産「玉陵(たまうどぅん)」~琉球国王の系譜~
玉陵(たまうどぅん、玉御殿または霊御殿とも)は、琉球王国、第二尚氏王統の歴代国王が葬られている陵墓。
-
-
映画「人魚に会える日。」仲村颯悟監督インタビュー
「…それだから沖縄っていまだに問題を抱えてるのかな… みんながこうやって逃げてきたものが、ずっと続い
-
-
沖縄の旧暦4月14・15日 ~アブシバレー(畦払い)~
夏本番を前に、農作物がすくすくと成長する季節。そんな時期に作物を荒らす害虫を退治し、豊作を祈る行事が
-
-
エイサー進化論 ~琉球國祭り太鼓・昇龍祭太鼓~
どんな「伝統芸能」にも始まりがある。 今は「創作」「現代版」或いは「コンテンポラリー」と呼ばれる芸能
-
-
登川誠仁 の「戦後の嘆き」が生まれたいきさつ
「戦後の嘆き」は、あるウチナーンチュの元兵隊さんのことを思い浮かべて作った歌です。 私がコザに来た時
-
-
アシムイとオボツカグラ信仰
沖縄本島北部、最高の聖地がアシムイ。 アスムイとも発音・表記されますが、 「大石林山」のサイトでは、
-
-
『風に聞いた話 ~竜宮(りゅうきゅう)の記憶~』 赤犬子の話
夕凪(ユードゥリ)の波間に魚たちが跳ねるのを見ながら、無風(ンナカジ)に聞いた話。 そのころ、ある漁
-
-
沖縄の旧盆 ~7月13日「ウンケー」14日「ナカビ―」15日「ウークイ」~
旧暦7月13日 旧盆・ウンケー 1年のなかでも最大のビッグイベントといえば旧盆。地域や門中、家庭によ